紅茶

●世の中、ニセモノ紅茶が多すぎる
 「紅茶のおいしい喫茶店」という歌い出しの、柏原芳恵「ハロー・グッバイ」という曲がありますね(詞・喜多条忠)。「ハロー・グッバイ」のときなら表記は「柏原よしえ」だとか、実はこの曲はもともとアグネス・チャンの「冬の日の帰り道」のB面曲「ハロー・グッドバイ」だったとか、いやアグネス・チャンと柏原よしえの間に讃岐裕子が歌ってるとか、いろいろトリビアがあるようですが無視します。この曲を学生時代(柏原よしえの時で1981=昭和56年)聴いていた庵主は、やはり喫茶店たるもの、紅茶がおいしくなきゃダメという信念を持っております。
 ところが世の中、紅茶のおいしい喫茶店がなかなかない。
 特に出し方がひどい。ポットと砂時計を持ってきて、「はい、この砂が全部落ちたら飲み頃です」なんて出すところ、多いですよね。じゃ飲み頃になったものを入れて持ってこいって。おまけに、おかわりができるつもりでたっぷりお湯を入れてくるけど、2杯目を飲むころにはたっぷり15分以上も葉が湯につかっていて、苦くて飲めたもんじゃありません。
 あとは、ティーバッグを入れたまま出してくるところも多いですよね。ティーバッグ・トレイあるいはティーバッグ・レストなる置き皿をつけてくるところもありますが、そんな問題じゃありません。そもそもティーバッグを使ってること自体が邪道なのに、そんな決してきれいとは言えないものを客の前に置かせて平気なのでしょうか。
 あなたが紅茶を高貴なる王様や貴族など高貴なる客人に出すとして、こんなやり方をするでしょうか。やはり喫茶店たるもの、お客様を貴族であるかのようにもてなしてこそです。紅茶は、完全に飲み頃のものを、しっかり注いだ状態、いわば完成形を出してこそです。

●2煎目も飲もう
 とはいえ、紅茶はコーヒーとは違って、1回こっきりではなくもう1煎飲めるのが普通です。2煎目も最高の状態でお召し上がりいただけるよう、真理庵では空になったポットをテーブルに置いておきます。
 え、ポットをテーブルに置くんじゃ普通の喫茶店と同じですか? いえいえ、このポットは湯を入れない状態ですから、葉が開いてしまうことはありません。茶を入れた後のポットが近くにあるのはお茶会では普通ですので見栄えが悪くなることはないと思います。逆に、うっかり他の人のと取り違えたり、庵主の不注意で汚してしまったりということがないよう、お客様のテーブルに置いておくのです。
 で、2煎目をお召し上がりになる際はおっしゃってください。いったんポットとカップを下げて、別のカップに最高の状態で入れて改めてお出しします。
 なお、何煎飲めるかは葉によって異なります。店内には本日の銘柄と、何煎飲めるかを表示しています。それ以上召し上がる自由もございますが、おすすめいたしません。

●紅茶の入れ方
 まずは「120cc、3グラム、3分」という数字を覚えましょう。庵主は「イチ、ニのサン、サン」と覚えています。120ccというのは紅茶に限らず多くのホットドリンクの標準分量、それを入れるのには3グラムの葉を使います。コーヒーは10gですから3分の1ですね。紅茶専門店ではちょうど3グラムをすくえるスプーンが売られていますが、後述のオレンジペコーの場合、すくい方によってけっこうバラつきがあるので、しっかり量ったほうが無難です。
 紅茶は抽出の時の温度が決め手なので、ポットを暖めておき、茶葉を入れたらできる限り沸騰したお湯を注ぎます。時間になったらカップに入れます。煎茶と違って最後の一滴までしつこく入れる必要はありません。カップを温めておくかどうかは人それぞれですが、真理庵では一応温めます。一般に、喫茶店主は温めることにこだわり、茶葉店主は「抽出が終わったらカップの温度はどうでもいい、別に北極で飲むわけじゃなし」という人が多いようです。
 このように喫茶店主と茶葉店主の意見が異なることがままあるものです。喫茶店主は「いかなる場合も5分を超えたらアウト」「最後に1回しっかりかき混ぜよ、でないとそれはただの湯だ」という人が多いですが、茶葉店主は「葉によってはじっくり5分以上抽出すべし」「かき混ぜるとアクが出るからおすすめしない」という人が多いです。庵主は茶葉を仕入れているG clefの表示時間を守っています。そこに5分以上とあったらホントに5分以上かけます。
 真理庵で使っているポットは最後に1回ピストン式に押して出すので、そのときにかき混ぜの効果が控えめに出ますので、どちらの立場も満足することでしょう。

s●紅茶の葉の種類
 紅茶の銘柄はいろいろありますが、まず葉の種類を覚えてください。Wikipediaの「紅茶#等級には12種類も挙げられていますが、3つだけ覚えれば十分です。
●オレンジペコー(OP)
 一番大きい茶葉。とある会社が「ダージリン」「アッサム」などと並んで「オレンジペコー」という製品を売っていること、オレンジという名前が入っていることなどから、銘柄や香りの名前だと思っている人がけっこういますが、大きくがさがさした形で売られているものは基本的にみんなこれです。
●ブロークン(BOP)
 オレンジペコーを細かく砕いたもので、だからBroken Orange Pekoeの頭文字でBOPと言いますが、日本語として言うときはただのブロークンが多いです。ストレートによし、ミルクティーによし、いろいろな使い方ができるので、安物ティーバッグの中身はこれになっていることが多いです。
●CTC
 茶葉を小さな球体状に固めたもの。ミルクティー、インドチャイ、アップルティーなど、別の味をつけるために濃厚に茶を出したいときに威力を発揮します。

●アールグレイ(フレーバードティー)
 よく、お湯を入れただけでアップルティーになるとか、バラの香りやピーチの香りの紅茶になるとかいうのがあります。そういうものを乾燥させてブレンドしているんですね。そういうのをフレーバードティーと言います。庵主はあまり好きではないのでメニューには入れたくないのですが、アールグレイだけは昔から定評のあるフレーバードティーなのでいつもそろえています。ベースはキームン(祁門)という中国茶が多く、それにベルガモットという柑橘類の香りがついています。

●アイスティー
 アイスコーヒーと違ってアイスティーは、熱い紅茶を氷に注いで作ります。そのため濃いめに入れます。コーヒーと違って紅茶は濃いめに入れることができるからこの方法になるのです。
 それから、ここで重大なことを言っておきます。真理庵のアイスティーは濁っています。キレイじゃありません。ごめんなさい。でも、濁っていないアイスティーはニセモノと言い切ってかまいません。
 アイスティーが濁るのは、カフェインとタンニンが結合するのです。熱湯を加えればすぐ改善しますが、それじゃアイスティーになりません。じゃ市販のアイスティーはなぜ濁らないのでしょうか? 答えは簡単です。カフェインが入ってないからです。つまりはニセモノということです。そういうニセモノを作る技術があるんです。
 お子様や妊婦の方のためのカフェインレス紅茶なるものも売られていますが、庵主はその手のものをことごとくニセモノとみなしております。アルコールの入っていない酒というものがあるとして、そういうのを酒と言えるでしょうか。それを考えりゃ自明じゃないですか。カフェインの気になる方は、ほうじ茶や玄米茶など、カフェイン微量の飲み物をお楽しみください。

●アップルティー
 紅茶にミルクを入れればミルクティーになりますし、紅茶にレモンスライスを浮かべればレモンティーになります。が、紅茶にリンゴスライスを入れてもアップルティーにはなりません。リンゴの味も香りもまるきりしません。アップルティーを作るときはあらかじめリンゴスライスを入れた水を沸騰させ、リンゴの味と香りをつけた湯を作り、それで紅茶を入れるのです。この時の葉はCTCを使います。みなさんがなさるときには安物のティーバッグでやるといいです。変に高級な茶葉でやるよりいいです。アイスティーにするならやはり濃いめに入れて氷に注ぎます。

●インドチャイ
 ミルクティーにマサラと呼ばれるスパイスをいっぱい入れたインドチャイ。しかし牛乳を沸騰させてそれで紅茶を淹れてもダメです。小さい鍋で湯をわかし、CTCの茶葉を入れ、マサラだのショウガだのを入れて、ふたをせず煮出し、それに湯とほぼ同量のミルクを入れて再び煮出します。

●トルコチャイ
 本来は専用の2段ポットで入れます。真理庵にも置いてありますが、やたらに時間がかかるので実際には小さな鍋で煮出します。これのポイントはブロークン茶葉を上のポットに入れて15分くらい徹底的に煮出すことです。下ポットでも湯を沸かし続け、上が煮詰まって湯が少なくなったら下のを補充するのです。これも淹れたての香りでなく湯に溶け込んだ茶の香りを楽しむものです。専用の小さなガラス製の茶器でどうぞ。